「ここ、黒くなってる。デッサンしてたときからずっと」
「…………」
「お客さん、降りないんですかー?」

運転手さんの声に、棒立ちになっていた私は慌てて、
「降ります!」
と言って、乗降口へ急いだ。

バスから降りて、プシューッという音とともにドアが閉まるのを背中で聞く。数秒固まったままだったけれど、ハッと我に返り、バッグから手鏡を取り出して、さっき桐谷先輩に触れられた部分を見た。
……たしかに、右目の下に鉛筆の芯の色がついている。

私はそこを手の甲でぬぐい、
「……ん?」
と、眉間にしわを寄せる。

……ていうか、バスに乗っている間、ずっとついてたってことだよね? 
桐谷先輩は最初から気付いていたはずだ。

「……性格悪……」
 
私はそうつぶやいて口を尖らせ、またゴシゴシとそこをこすった。