終業式だったこともあり、バスの乗車率は高かった。はやめに乗れた私はなんとかいつもの席に座れたけれど、隣にはたぶん2年生だろう女の先輩が相席。発進間近になると、ギリギリで乗車してきた生徒たちもいて、席が埋まっているために、彼らは通路に立って乗ることになった。

バスの重たいエンジン音とともに、窓の外の景色がゆっくり動き始める。私は高校の門まわりの緑と、いくつかの雲が浮かぶ空の青を見ながら、バスの小さな揺れに体を任せた。

「遥はさー、夏休みどーすんの? 塾で勉強とか、学校で制作とかすんの?」

ガヤガヤしている車内で、ふと耳に入ってきた“遥”との声に、私は顔をあげる。

「いや、だるいし行かない」

すぐそばの通路に立ち、吊り革にけだるそうに体重を預けながらそう答えたのは、桐谷先輩。

「…………」

私はものすごく驚いたけれど、顔に出さないようにしてさりげなく視線を戻す。ちゃんと見ていなかったから乗っていたことに気付かなかった。こちら側を向きながら吊り革を握っているから、あちらからもちょうど視界に入る位置だけれど、先輩は気付いているのかいないのか、横に並ぶ男友達と話を続ける。