休み時間。

廊下を歩くと、必ずどこかからか男子生徒の「暑ぃ」という声が聞こえ、教室内を見れば、女子生徒が下敷きをうちわ代わりに扇いでいる。
梅雨があがってからの気温と高さと、時間が経つはやさ。明日は終業式で、明後日からは夏休みが始まる。

「あーあ。1学期中にはなにもなかったなー、ロマンス」

女子トイレへと向かいながら、涼子が口を尖らせる。
中野くんのクラスの前を通ったので歩きながら室内を覗くと、中野くんと是枝くんと諏訪くんがひとつの机に固まっていて、こちらに手を振ってきた。私たちは、手を振り返して通り過ぎる。

「沙希は、諏訪くんとはなにもないの?」
「なにもないよ」
「ふーん」

涼子はなにを期待しているのか、「面白くないわねぇ」と言う。

「桐谷様とは?」
「べつに」
「美術室では会ってないの?」
「うん。作品は家で描いてるらしくて、ぜんぜん」
「校内でばったりとかは?」
「階が違うし、そんなに会うもんじゃないでしょ」

嘘。
数回、遠目に見かけた。その度に心臓が跳ねた。こちらを見た気がしたけれど、目が合ったのか合わなかったのかわからないほどの距離。手を振るのもなんとなく気が引けたし、あちらもなにもしてこなかった。

『ごめんね』

最後に交わしたあの言葉が、やっぱり私に対して距離を取ったような言葉に聞こえて、なんとなく今までどおりとはいかないような気がしていた。