「……は?」

頬が赤くなったミサキ先輩は、信じられないものを見るような顔で私に向き直る。

「なにしてんの……よっ!」
 
そして、ドンッと私の肩を勢いよく押して突き飛ばす。ドアのところだったからその縁に思いきりぶつかり、大きな音が響いた。尻もちをついた私は、負けじと下からミサキ先輩をにらみつける。

「”たかが絵”なんて言わないでくださいっ! あんなっ、あんなに、先輩がっ、あんな……」
 
喋りながら、声がかすれる。私は床に力なくこぶしを打ち付け、「うぅっ……」と下唇を噛んだ。

「あんなに大事に思ってる絵をっ……作品を……っ」
 
悔しくて悔しくて、涙がこらえきれずに落ちた。そのまま手の甲で目をぬぐい、嗚咽を続ける。

「なに泣いてるの? バカなの?」

「ミサキ」

廊下から誰かがミサキ先輩の名を呼んだのは、彼女の振りあげた手を見て目をぎゅっとつぶった瞬間だった。

目を開けると、私の頭上の先を見るミサキ先輩。そしてそれをたどって私も声がしたほうへ振り向くと、背後に桐谷先輩の姿があった。
そのうしろには舞川さん。たぶん、途中でこの教室から出て、桐谷先輩を呼びにいってくれたのかもしれない。

「あ……」

先輩は、怒ってはいない。笑ってもいない。ただじっとこちらを見ている。