あ……ちょっと、泣きそう……。

「水島」

急に小さな衝撃を感じて、沈んでいく心が止まった。隣にいた諏訪くんが、私の肩を抱いて、ぐいっと自分側に寄せたからだ。思いきり密着して諏訪くんのシャツにうずもれてしまった私を見て、桐谷先輩も舞川さんも、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている。

「あっち行こう」
 
めちゃくちゃ顔を近付けてそういうもんだから、ふたりの前だということもあって、私の顔は一気に紅潮してしまった。なにか言わなきゃと「あ……」と口を開くも、私の肩を抱いたままずんずんと歩き、階段をおり始める諏訪くん。踊り場を曲がると、振り返ってももう桐谷先輩と舞川さんの姿は見えなくなった。



「ちょっと! ビックリしたんだけど!」

小声で訴えると、肩をつかんだままだった諏訪くんの手が、パッと離される。

「俺も自分の行動力に驚いた」

そう言って、今さらきたらしいはずかしさに、口を覆う諏訪くん。耳の端がまっ赤だ。

「でも、あのままだったら泣いてただろ? 水島」

 諏訪くんは一見鈍感そうなのに、なんでそんなに観察力があるんだろう。図星の私は、黙りこんだあとで、小さく「……まぁ」とうなずく。

「バーカ」

そう言いながら、諏訪くんは、私の頭をクシャクシャに撫でまわした。