それじゃあ、ごゆっくりね〜、と手をひらひら振って優里さんご退場。
残された私は一人、手すりにだらんと身を任せていた。
好き。という感情………
それは私だって同じなのかもしれない。
幼い頃からあまり両親とふれあう機会の少なかった私は、いつしかこんな冷めた女になってしまって。
それこそ、特に異性には近づかれることもあまりなかったし、私から近づこうともしていなかった。
だけど、黒瀬は違うのかもしれない。
だってあいつはこんなわたしにも構ってくれるし、なんだかんだ言って私もあいつの前では素のままの自分でいられる。
…………あいつにだけは、心を開いている自分がいる。
その瞬間、私の胸が“ドキンッ”と高鳴った。
……………………黒瀬だけは、特別……?
「……いやぁっ、ないない!」
無意識に大声を出してしまった。
…………んん?これはマズイ…………
“ガチャリ”
や、ややややややっぱり来たぁっ!
「藍野?なにか言ったか?」
ひ、ひゃぁぁぁぁぁぁああぁぁあ!
―――――――――――――――――――――――――
「それで?なにが、“いやぁ、ないない!”なのですか?」
うわ…………、怖っ。
まさに尋問…………
しかも、黒瀬の目!目!
いかにも怪しげな…………
絶対何かあるなと感づいている顔だ………
「えと………あ、あの………ほら、キーホルダーが、ない……ない………ない………みたいな……………」
「お前………キーホルダー無くしたくらいで叫ぶようなキャラじゃないだろ。」
はい、ごもっともです…………
「あははははー。ソーデスカネー………。」
「早く言わないとお仕置きするぞ?」
………あ、はい。
分かりました、藍野分かりましたよ。
こいつの本当の目的は、さっきの謎の叫びの理由を聞きたいんじゃないな。
どーせ………………
「お前!お仕置きがしたいだけなんだろ!」
「………っふがっ!」
私の渾身のストレートは、見事に黒瀬のみぞおちにクリティカルヒット。
けほっ、けほっ、と苦しそうに咳き込みながら、黒瀬は悔しそうに私を睨む。
ふふっ、黒瀬よ。
本日はなんとも哀れな一日であるな。
優里さんに殴られ、私にも殴られ。
私が満足気にニコニコしていると。
「藍野……なに妄想してたんだ?」
…………あ?
「妄想?何もしてないけど。」
「嘘つくな。お仕置きって?どういうお仕置きなんだ?」
「し、知らないし……」
「ったく、エロいな〜お前は。どうせ、お仕置きのチューとか、その先……とか考えてたんだろ?」
「………は!?そんな妄想してな……」
い。そう言おうとしたのに。
それは、私の唇に彼の親指がそっと触れた事によって制されてしまった。

