「よぉ。」
突然飛び込んできた私に。
顔色一つ、変えない。
「なんで裸足なんだよ。笑」
メイク台に軽く腰掛けたまま、サングラスの下の口元は片側だけ持ち上がる。
だめだ、やっぱり。
私、航大が。
背伸びをやめた丸腰で、彼の前にたってみれば。
見つけたばかりの心から、ぼろぼろと虚勢が剥がれ落ちていく。
『遅くなってごめん。』
首を振る彼の。
『陽斗くんに、会ってきたの。』
その瞳は、サングラスの奥で掴めない。
『陽斗くんに、一番に伝えたいと思ったから。』
「そう。」
腰を上げて、真っ直ぐに背中を伸ばして。
柔らかく、私を見下ろす。
この目線の違いが。
私をどんどん、小さく。
どんどん、素直にしていく。
「全力で幸せそうにしてろよ、じゃねぇと盗む。
盗まれたくないなら、堂々とそうしてろ。」
やっぱり。
私が陽斗くんを選んだと思ってる。
相変わらず、偉そうな。
不器用な愛情表現に、心が溢れていく。
ヒタ、と。
一歩踏み出せば、さっきよりもずっと足裏に床の冷たさを感じて。
『ばかやろう。』
「はっ?!」
ヒタヒタ、と。
止まらない思いは、彼だけに向かう。
『幸せにするのは、おめぇだ!』
あと、ほんの1,2メートルの距離を。
待ちきれなくなった私は、駆け出した。
辛うじて持ってた、片足だけのヒールもバッグも。
余計な何もかもを、手放して。
彼の前、立ち止まったその0.001秒の瞬間に。
踏み切るように、思いっきり背伸びをして。
懐かしい香りの溢れる首元に、深く深く両腕を回して。
私は、これから。
この男に、最初の“自分からのキス”をする。
「・・・!」
一瞬にしては十分の、蕩ける感触。
その柔らかさを引っ張るように、やっと声が出せるだけの距離に唇を離して。
『好き。』
愛しい、愛しいただ一人の人に。
最初の、愛の告白をする。