カーディガンの袖口から覗く、華奢なピンクゴールドのブレスレットには。
小粒のパールとホワイトトパーズが、シャラシャラと連なって。
彼女の柔らかな空気感に、よく似合っていた。
伏せた長い睫毛は素睫毛で、大きな垂れ目が幼い印象を与える。
『ねぇ、痛くなかった?思いっきり尻餅ついたでしょ?』
「・・・あ!!」
『え、なに?!』
彼女が突如あげた大きな声に、思わず身体が震えた。
零れ落ちそうなほど、丸い大きな瞳を見開いた彼女の手には。
『・・・チョコ、好きなの?』
葵ちゃんがガチャガチャで引き当てた、チョコの卵。
「・・・あ、いえ。
・・・わー、当たったんだぁ・・・。」
“いえ”と返事はしたものの。
相変わらず顔を上げず、食い入るように卵を覗き込んでる。
濡れたように星を散らしながら、キラキラ光る瞳。
それはちっとも、“いえ”な雰囲気では、なく。
『いる?あげるよ、それ。』
私も、彼女の猫柄ポーチから溢れた、リップやチークを拾い集めながら聞いてみる。
『他のもいっぱいあるんだ、好きならそれ持って行って?』
「いいんですか?!?!」
突如、パアッ!と目に見える光を全身から放射しながら。
顔を上げた彼女と、初めて目が合う。
やっぱり幼さを感じさせる印象。
だけど、少し開いた唇や、小さな耳朶や、至るところから漏れ出る色気。
きっと本人も気づいてないその香りのいい気配は、持ち主に知られないうちにふわふわと辺りを飛び回る。
この子。
多分、すごい男ウケする。
きっと、本人が把握してない分。
ある意味無遠慮に、ものすごく。
駄目だなぁ、夜の仕事してると。
可愛い子がいると、すぐこういう分析しちゃう。
『いいよ、あげるあげる。』
キュッと猫柄ポーチのチャックを閉めて。
差し出して、私も顔を上げると。
今度は驚愕した表情で、彼女が私に見入っていた。
まさに、この世のものではないものを見るような、目。
驚いてるけど、まずはその前に見えているものが信じられない、みたいな。
なんだろ・・・
どっかで、会ったことでもあったかな?
だけど、私も。
何となく、彼女を知ってるような気がする。
“蜂蜜の香りの人”
思い当たった、フレーズに。
『・・・ねぇ、』
瞬間、廊下の先から。
割れるように響いた歓声が、私の言葉を遮った。