恋色流星群


 

iPhoneを劈くような。
葵ちゃんの声が、スピーカー割れしてる。


“あんたバカじゃないの?!
こんな大事な日に、ヨガなんて入れる?!?!”

『うるさいなー、だって日曜の午前中しか空いてなかったんだもん。
大丈夫、間に合うってば。』



ヨガスタジオのロッカールームで。
周りの人たちの視線を、ひしひしと感じながら、スピーカーフォンで葵ちゃんと話す。
本当は、こうでもしてメイクしないと・・・
遅れる。

ぼうっとシャワーを浴びすぎたな。
修行のように、温と冷を。
滝行さながら、浴び続けた。





“早めに待ち合わせして、ヘアセットして行かない?”

という浮かれたLINEに。

“今からヨガ。
つーか、そのスキンヘッドのどこをヘアセットするんだよ”

と返して、iPhoneをロッカーに放り込んだ。




鳩のポーズから太陽礼拝。
精神統一して、すっきりした肩で開いたロッカーには。

葵ちゃんからの鬼電でパンク寸前のiPhoneが転がっていた。



『切るよー?これから髪乾かすから。』

「すっぴんで来たりしたら怒るからね!
陽斗くんに礼を尽くしなさいよ!!
遅刻も許さないから!!」


ヘイヘイ、と適当に相槌を打って、切断マークを押した。

ドライヤーの突風を受けて、長い髪はボワボワと舞う。
コテがないから、ストレートに整えて行こう。








アヤちゃんから、あの夏のPV出演後、私を探す検索ワードが上位ランキングに来てると聞いた。
隠れれば、探したくなるのが人間の性。
倫くんとの約束は、正体非公開。


私がすごいんじゃなくて、それだけ細かな部分まで追わせるplanetがすごいんだと、いうこと。


心配性な瀬名ちゃんからは、会場ではできるだけ一人にならないように念を押されてる。
話しかけられても、質問には一切答えないこと。
「理沙さんだから大丈夫だと思うけど・・・」の前置き付きで。
鼻声の彼女の注意は、その後10個ほど続いた。



水分を飛ばした髪が、肩で軽やかに跳ね始める。


こめかみを指先で揉みながらも、片側の手でドライヤーを揺らしていると。
跳ねた髪の下で、首筋の紅がチラついて。
もうドライヤーを止めて、ブラシを通した。







“俺に、任せて。”
“俺に、賭けろ。”



言わんとしていることは、きっと同じ二つの台詞。
何度も反芻して、確かめようとした心の反応。

夜明けに一人、意を決して開いた、パンドラの箱の中には。


何も、入ってはいなかった。