押し付けられた、柔らかさに。
閃光のように身体を走った、迷いも戸惑いも。
一瞬で、打ち砕かれた。
掻き回すようなキスの熱い動きに、抱えていたそれぞれの味が溶けていく。
陽斗くんの中は、驚くほど熱くて、飲み込めば甘くて。
ほんのりと、桜桃の香りがした。
隙間なく、ぴったりと押し付けられて。
吸われているはずなのに、注ぎ込まれてくる彼の味と香りに。
身体の底から、湧き上がってくる焦れた熱。
擡げていた首が、クラッと後ろに傾いたら。
掴まれていた手首が、彼の首に導かれて。
私の本能は、そこにぎゅっとしがみついた。
あられもない、動作で。
あられもない、キスを受ける。
私の意志を、もうちっとも待たずに。
彼の仕草に、尽く応えていく身体に。
自分が隠し持っていた、獰猛な本性を見せつけられる。
頬を撫でる手が。
口元をくすぐる髭が。
息継ぎのように名前を呼ぶ声が。
どれも違わず彼のもので、その事実に追われて息があがっていく。
私、堕ちていく。
また、彼に乱されていく。
彼といると、私は。
ちっとも、思い通りにならない。
少し性急な手つきで、彼が私の視界を開いた。
急に与えられた明るさに、戸惑うけど。
ゆっくりと瞳を開けば。
思っていたよりもずっと、熱で濡れた彼の瞳を見つけて泣きたくなる。
この痛みが。
もしも、そうなら。
あの柔からさは、きっと。
『陽斗く、』
「いいから。」
熱い息で、塞がれた言葉と唇。
速度を増して流れ込んでくる、彼の感情。
もう、隠すことなく涙を流す私は。
彼の“いいから”が隠す意味を、探れない。
上がり続ける体温と、同じ分だけ膨らんでいく切なさが。
取り上げられそうになる意識にしがみついて、私を放さない。
だけど私は、ひどく痛む確信が悲しくて。
唇が漏らす、濡れた音に。
飛び込んだ。