ふわっ、と。


彼の気配が近くなったことを、肌で感じた。




私の向かいに座っていたはずの陽斗くんは。

今、この部屋のどこにいるんだろう。








「俺、理沙子のこと好きって言ってるのは。今だけの気持ちで、言ってるつもりはないよ。」

『うん・・・。
ごめん、そういうつもりで言ったんだじゃないよ。自分の仕事に、悩みがあって。』

「悩みって、なに?」

『私の仕事は、いつまでもだらだらできる仕事じゃないでしょ。
そろそろ、本格的に踏み込むか、辞めるか、決めないといけない歳なんだよ。』

「だから、それは」

『ありがとう、陽斗くんの言いたいことは何と無く分かってるから。』






彼が今夜開いてしまいそうな真相を。

言葉を遮ることで、無理やり蓋をしようとしたら。












一瞬、しんと。

空気が、冷えた。










「“何と無く”か。」




低い、呟きに。

彼の気配の濃さが、変わった気がした。




「じゃあ、はっきり分からせるよ。」






一段と近くなった声が。

怖くて、逆に。

距離を確かめたくて、手を伸ばす。


















「任せてよ、理沙子の人生。


___________________俺に。」







掴まれた、手首。

熱い手の平。






ふと、頬のあたりで感じたBVLGARIの香りに。

もしも、この香りが彼の腕から溢れているのなら。


私はもう、ソファの背もたれまで追い詰められているのかもしれないと思う。












生温かさを、音を立てて飲み込んだら。
























「どこにも行くな。
もうずっと、俺のそばだけにいてよ。」


















あまりにも。

彼の声が、近いと感じた。

























次に降ってきた、赤い果実は。



















陽斗くんの、唇だった。