ボヤけていた古いカメラのピントが。

徐々に、あの人に合う__________










どうしよう。

視線が、合う。




怖い。
















ゆっくりと、私の顔色を読み取った航大が。

私の視線を追って、振り返る。



その、緊張感を持った背中が。






「理沙子。」


私を呼ぶ主から、私を隠した。





私の名前だけが、少し冷たい夜の空気に溶けて消えた。

誰も、何もそれ以上を発さない。








微かに動いたのは、航大だった。


たった一瞬で、振り返って私の髪を撫でて。その手で震える手を握った。



「知り合い?」


いつもと変わらない低く湿度のある声が、私の神経を柔らかく撫でる。


「泣くな、大丈夫だから。」


泣くな?
泣いてないよ?

声を出す代わりに思わず首を振ったら。
視界に、小さな水滴が跳ねた。








「理沙子、久しぶり。」



翔さんの声は。

相変わらず、空気をびりびり震わせながら私に響く。




声の近さで、距離を知って。

身体がまた、固くなる。








「七瀬です。」


私が答える代わりに。

航大が、静かな声で答えた。



「青木です。」







一戦触発。

張り詰めた空気の糸に触れてしまったら、一気に何かが決壊する。

二人の男の発する、目に見える殺気に。



私はただ、息をも抑えて足元を見ていた。









翔「理沙を。少し借りれますか。」

航「今日は無理です。」




間髪入れず、反応した航大の声は。
静かで、一直線のまま。

ギュッ、と。柔らかい右手に、力が入った。






切れそうなほど強く唇を噛んで。
体中の力を込めて、少しずつ顔を上げると。


私はすっぽり、航大の背中に隠されて、翔さんの顔は見えない。
ほんの少しだけ、安堵で力が抜けたのと同時に。



それでも立ち上がる、翔さんの色濃い空気に。


愕然、とする。










翔「理沙、話がしたい。少しでいいから、時間がほしい。」



広い背中の向こうから、子供を寝かしつけるように話す。あの、話し方。