地下2階の駐車場。

私の敷地“58”は、宝の持ち腐れ。


車を持たない私は、高級車ばかりが生息するそのフロアに足を踏み入れることさえほとんどない。
航大が、タクシーでなく自分の車で来る時には。恩着せがましく、そのフロアを開錠する。







『・・・あっつ。』


地下2階で開いたエレベーターを降りると、肌が熱っぽい湿気に包まれた。

もう、9月なのに。
熱帯夜は、まだ去り際の背中を見せてくれない。



57と59の間に停まる白い車。

運転席、サングラスの男が。ハンドルにもたれて、こちらを見てる。

降りてくる気配がないのを見て。
少し小走りに近づいて、助手席のドアに手をかけた。







一瞬で私を包む。いつもと変わらない、車の匂い。



『すずしー!』


運転席から当たり前に差し出されたシャツを。
当たり前に、受け取る。

肩が冷えたら。
私はいつも、航大のシャツを羽織る。






「無理やり悪かったな。」

『ほんとだよ。で、なに?』

「しばらく預かって欲しいものがあってさ。」

『なに?』



運転席から半身をねじって、後ろを振り返る航大に。
合わせて私も、後部座席を覗く。











まさか、そこには。



『・・・!え、うそ、可愛い!なにこれ!』

「ここ、ペット大丈夫だったよな?」



助手席から手を伸ばしても、ギリギリ届かなくて。

不安そうに、足をすくめて私を見てるつぶらな瞳。
航大が片手でふわりと抱き上げて、私の膝に乗せてくれた。




『大丈夫だけど・・・可愛い。』



あまりの小ささと、あったかさに。頬を寄せて、その香りを吸い込んだ。



『航大の犬?』

「うん。ペットホテルに預けることが多くて。
悪いんだけど、仕事落ち着くまで頼めねぇかな?」