膝上のクラッチの中で、震え始めた携帯に気づく。
一瞬、陽斗くんの視線がクラッチに落ちて。
その瞳から、笑みが消えたけど。
「次は、航の番だな。」
小さく呟いたその口調は、柔らかくて優しくて。
『番、とかないから。』
尖った声で、言い返す私に。
降り注ぐ笑顔も眼差しも、変わらずにくすぐったい。
小さくなっていく車が
角を曲がるまで、見送った。
部屋に上がるエレベーターの中で、また震えた携帯。
11の不在通知と
上がったばかりの、LINE通知。
LINEは、さっき別れた陽斗くんからだった。
“言い忘れた”
“戸締りはしっかりね”
だから、お父さんか!笑
返事を打とうと画面に触れたら。
反射するように、また上がったメッセージ。
“あと”
“あんまり”
“俺を妬かせたらだめだよ”
空気を変に吸い込んだ喉から、おかしな音がした。
半日以上、甘い味のする酸素しか与えられなかったから。
体が、現実についていけなくなったんじゃないかと不安になる。
唇が、熱くなる。
舌の上で。彼の動きが、蘇る。
もしかしたら、これこそが。
半日かけて、彼が仕掛けた
まんまと私が深く嵌った
世界で一番
甘い、罠。