「理沙ちゃん、また来てね。できれば次回も、陽斗と。」
車を回してくる、と要くんが出て行ってから。
外まで見送りに出てくれた金田さんが、ストレートに笑った。
『私、あんまり良くないことしてるんです。』
太陽のようなその人の笑顔に
つい、本音が口をつく。
『誰が好きなのかちゃんと分かってないのに、要くんと一緒にいるんです。』
夜の海風は涼しくて。波の音は細やかで優しい。
「らしいね。
すごいいい男と、取り合われてるんでしょ?」
『えっ?!』
サラッと返ってきた反応は、1ミリの邪気も含んではいなくて。
海を見つめる瞳は深い黒で、なんだか要くんに似てる気がした。
「さっき、“あの子だったら、一生かけて粘れ”ってハッパかけたらさ。
“そのつもり”だってさ。笑」
正しい反応が、思い浮かばない。
耳に心地よい、波の音。
この周波は、きっと要くんの声と同じだ。
「陽斗、しぶとい奴なんだわ。笑
理沙ちゃんが迷ってること、何とも思ってない。」
車のヘッドライトが私たちを照らして、金田さんが手をあげて応える。
「あいつにとって、理沙ちゃんは運命なんだと思うよ。
そういう相手って、振られても振られなくても、もう関係ないでしょ。」
車を降りた要くんが。
助手席のドアを開けて、私に手を振る。
「焦ることないよ、あいつが焦ってないのに。」
真っ黒な海の上で
ぼんやりと、白い月が光っているのが見えた。
初めて抱きしめられたときの、匂いが香った気がした。
あの感覚を
私はあれから何度も、思い出している。