久しぶりだね、と笑ったその人は。
俺が知る4年前の表情とは別人のようだった。
よかった。
顔を見たら、びびるかもと思ったけど。
急速に冷めていく思考回路。
夜中のスタジオを抜け出した航さんが、目の横に傷をつけて戻ってきたあの日。
それまで何も言わなかった直生さんが初めて、
「もうやめろ」
って言ったんだ。
何をどうしたら、愛してる人に手をあげるんだよ。
そんな感情、愛なわけない。
間違ってる。
本当に。
チ「お久しぶりです。」
「航、いる?いるよね?」
許可なしに玄関に入り込み、ヒールを脱ごうとしたところで。
彼女の顔色が変わる。
彼女の前に立ちはだかる理沙子のヒールの赤い靴底。
「・・・なにこれ。女いるの?」
タイミング良く、思いっきり蛇口をひねったシャワーの音が聞こえる。
部屋の奥に移った視線が、廊下に転がる理沙子のバックを捉える。
「・・・ねぇ、なにこれ?」
問い詰めるような彼女に。
そんな資格はないと告げる。
チ「女いるよ。航さんのね。」
「・・・は?」
チ「あー、けど俺の女でもあるかな。シェアしてんの。」
出来るだけ感じ悪く見えるように。
目はそのままで、口元だけで笑った。
「なにそれ・・・。航が浮気してるってこと?
ありえないんだけど。」
チ「2年前の話でしょ。」
「え?」
チ「自分が本命だったの、2年前までの話でしょ。」
この2年間。
航さんが
何回
何百回
何万回
謝って傷ついて堪えたと思ってんの。
頼むから
そろそろ解放してくれよ。
プライドに襲われて、目を見開いて立ち尽くしている彼女に。
ごめん、航さん。
「・・・今の自分。何番めか分かってる?」
俺はやっぱり
生温くなんて、できない。