完全に取り上げられた私を恨めしそうに見上げて。


「・・・男つきかよ。」

男はノロノロと立ち上がり、唾を吐いて去って行こうとする。







「おいっ・・・!」

『こうだいっ、だめっ・・・!』





咄嗟に、追おうとする腕を掴んだ。

混乱する頭の中で、早く終わらせなければと新たな警告が鳴る。



よくある話。

下手に手を出せば、週刊誌にでも売られる狂言。








それでも追いかけそうな気配を見せる航大の手首を、両手で必死に掴む。


離しちゃいけない。

航大に迷惑がかかる。








「理沙!ケガは?!何もされてないか?!」





両頬に感じる手の平の熱と、安堵感で全身の力が抜ける。


航大の腕が震えてるのは。
しがみつく私の腕が震えているからだと気づく。








「・・・大丈夫だから。もう、大丈夫だから。」




ふわっと私を包み込む温度に、体中の細胞が溶けて。

音を立てて涙が流れ始めた。



















ここを脱け出さなきゃ。

頭では分かってるのに、体が動かない。


力いっぱい押しつけられた胸の厚さに、心臓が痛くて窒息しそう。


だけど、ゆっくりと響く鼓動が優しく私をあやすから。







離れられない。

離れたくない。
















「・・・よかった、今日来て________。」









首に触れる唇が小さく動いて、相手を探さず零れ落ちた言葉は。








私と胸を


もっと泣かせた。