「唇、切れるよ」と言って親指を唇に近づけるとまたそっぽ向かれた。
「八野くんはずるい」
俺から逃げようと俺の胸を力強く押すが、逃さないように腰に腕を巻きつけているから逃げるに逃げない篠原。
だからなのか目線だけでも合わせないようにしている。…そんなところもたまらなくかわいい。
「どうして?」
「いっつも私をどきどきさせるもん」
どきどきしてるのはこっちの方なのに。
そのまっすぐな笑顔に、
そのまっすぐな優しさに、
どんだけどきどきさせられたのか。
「八野くんは私のこと友だちとしかみてないってわかってるけど期待しちゃうことばっかする」
期待して、舞い上がって。
だけど友チョコだと言われて渡されたチョコレートは現実に引き戻された。
友だち止まりなんだって痛感した。
「八野くんなんてっ…八野くんなんてっ……」
ポロポロ篠原の大きな瞳から涙が流れる。
期待する、舞い上がる。
『篠原も俺のこと好きなんじゃないか』って期待してしまう。
「……だいすき、っだよ」
夢なんかじゃないかって思った。
だって1年の時から好きな女の子から好きって言われるのはとてつもなく嬉しい。
涙が出そうで、だけどぐっと我慢して、
篠原のつむじにそっとキスをした。
「俺も、だいすきだよ」
染まっていく、きみに。
染まっていく、はちみつに。
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END