「ごめんなさい。嘘言いました」



素直に謝ると右隣、つまり八野くんのほうから吹き出した声が聞こえた。



「ほんと素直だね」



ちろり、と八野くんをみると久しぶりに見る笑顔で私の方を見ていた。


前のクラスメイトのみんなが言ってた。
『八野くんの笑顔を見たことがない』と。

それはいまも同じで、
『2年A組の八野 蜜季くんの笑顔を見た人はだれもいない』って。



この笑顔は私だけがみれる。
私だけしかみてないんだ…。



その笑顔をみて今年こそ、ちゃんとバレンタインで本命チョコをあげたい。

『好き』っていいたい。



「や、八野くん…」


「なに?」



あのとき、いつも聞いてたあの声。
低いんだけど優しさのある私の好きな声。




「あ、あったかいね」


「…そうだね」



俯くとはちみつに染まっている。

初めて会ったあの雨の日のように。




* * . 【 篠原 彩乃SideEND 】 . * *