「ある者は少女を" "と呼んだ 」








1月1日。第111回全国合唱コンクール。

数ある中学の中から選抜された、合唱の豪傑たちが出揃う、年に一度の大切な大会だ。

その中のでも優勝香舗としてちゅうもくされ、ここ数年無敗を誇る中学校、最強の『乃亜中』と、確実に力を伸ばしてきた中学校、ダークホースの『明光中』の勝負には、日本で音楽に関わっている者全てが注目することとなった。

今年こそ乃亜中を優勝から引きずり下ろす、そう決心していた明光中に所属する僕らのもとに、嫌なニュースがひとつ飛び込んできた。



_____"アイツ"が戻ってきてるらしい


テナーに所属するヤツのたった一言で、僕らの雰囲気は急激に固まった。

赤松 玲奈。天才的な音楽能力、百発百中の絶対音感、的確なコンダクターといった、圧倒的な才能を持った、音楽界の寵児だ。

そんな彼女が小6から中2までの三年間の海外留学を経て、『乃亜中』に戻ってきたらしい。

『勝てんのかよ』

『無理だろ。相手はあの赤松 玲奈だぞ。アイツ、指揮者としては最高なうえに、人の合唱をも変える"女神"だぞ』

『今年もやっぱ駄目かあ』

諦めムードになる明光中の他のメンバーとは違って、僕は少し楽しみだった。

乃亜中の合唱には安定感があり、何年たって人が変わっても簡単には崩れないと聞いていた。

そんな乃亜中は、天才コンダクター赤松 玲奈を迎えて、いったいどんな風になったんだろう。

すでに終わった自分達の合唱もそっちのけで、僕のかんがえは乃亜中のことでいっぱいだった。