今は穏やかな春。
春になると思いだしてしまう――――。
あの男の子の事を。

そう、あの日も今みたいなは穏やかな春の日のことだった。
もう6年も前の事。
顔も思い出せない男の子。
迷子になった私を優しく送ってくれた男の子。
それが私の初恋だった。
私はあの時、町を探検しようと母に黙って家を出た。
見知らぬ街は知らないこともいっぱいだけど、楽しいこともあるだろう。
そう思って勝手に家から飛び出して行ってしまった。
そして結局迷子になった。
知ってる人もいない街だから、私はもう絶望的で、
南公園のベンチで泣いていた。
その時に男の子は私に優しく声をかけてくれた。
「君、どうしたの?」
「まっ…迷子に…なっぢゃっだの…。」
「そうなの? 君自分の家の住所、わかる?」
「わっ私…今日引っ越して…来たから…分かん…ない。」
「引っ越してきたの? じゃあ家の特徴とか…。」
「よく見てなくて…。でも白とカスタードクリームみたいな色の家…。」
「じゃあ、南番地かな? 今日引っ越しトラックが来ていたし。
    ほらっ おいでよ!」
「…………うん!」
私は男の子の所へかけて行った。