「もう行かなきゃ」

 そう言って水晶が立ち上がる。

「なんで?もう少し一緒にいようよ」

 水晶の"親友"の私がそれを止めた。

「奏が怒っちゃうから」

 水晶は瞳に恐怖の色を浮かべてその名前を口にする。

「そっか」

 私は、水晶が奏にどんなことをされているのか全て知っている。

 酷いの一言じゃ表現できないようなことだ。

 けれど、水晶は如月が何度言っても奏から離れられない。

 共依存の関係にあるから。

「らぎももっと海斗くんと会った方がいいよ」

 水晶は私の彼氏の名前を出して話をそらした。

「別に海斗とは会わなくてもいいよ」

 私にとって、海斗はただの異性で、彼氏と言ってもとても表面的なものだ。

 海斗は私を愛しているが、私はこれ以上ないくらい海斗に冷めている。

 嫌いなわけではないのだが、興味がないというのが一番しっくりくる表現かもしれない。

「もー、婚約してるのにそんなこと言ってちゃダメでしょー」

 水晶は笑いながら言う。

「婚約って言っても、世間体のためだし」

「そういうことは言わない約束でしょ」

 水晶は思わず真顔になった。

 水晶はきっとわかっている。

 私が水晶を一番必要としていて、深く愛しているということが。

「みーちゃん…」

 私と水晶はなんの脈絡もなくキスをした。

 私たちはお互いの舌を絡ませて、キスに溺れていく。

「ん…らぎ…」

 お互いの白くて細い指が絡まって、どちらからともなく強く握った。

 "同性愛"という言葉では片付けられないものが二人の間にはある。