苦しくて、愛おしくて





「………別に。なにも」


私の棒読みに近い質問を冷たく投げ返して、その小学生は泥水を吸って重そうな靴をベチャベチャ言わせながら歩き続ける。

なにも、って…

理由もなくこんな薄暗い裏門を、小学生が一人で通るものなのだろうか。(小学生の通学路でもあるまいし)


「(変な子ー……)」


益々不信感を抱きながらも、なんだか目が離せなかった。

全身泥だらけの小学生の後ろを数メートル空けながら、私も続くように歩き出す。

「転んだの??」

「転んでねえーし」

後ろから投げかけた声を振り返ることなく即座に言い返し、またすぐベチャベチャと靴の音だけが間を紡ぐ。

見てるこっちが靴の中が気持ち悪くなりそうなほどだった。


「これで拭く? …って言ってもこれも汚れてるけど」


手に持っていた汚い体操服を一瞬差し出してすぐに引っ込める。