**-- Three --**



「少し木を見に行こうか」


その人が口を開いたのは、新しい部屋に向かう途中のトラックの中だった。


トラックを走らせてから15分くらい経った頃だったと思う。


外はもう真っ暗になっていて、道路脇に植えられた木が車のヘッドライトに照らされるたび、ワタシを陥(オトシイ)れようとする“何か”のように怪しく揺れている。


でもワタシは目をそらそうとはしなかった。


だって、今見ているものも数日後には忘れるし、仮に覚えていたとしてもリセットボタンを押せばいいことだから。


「今見てるからいい」


ワタシは素っ気なく返事をした。


「こういう木じゃないよ。もっと立派な木」

「ここに生えてる木だって十分立派に見えるけど」

「フーッ」


引っ越し屋さんは、鼻でフーッとため息をついた。


「まぁいいや。あんた、カゼひいてんだもんな。カゼが治ってからにする」


少し考る素振りを見せてから、引っ越し屋さんは言った。