**-- Ten --**
「離してよ!」
一言一言を発するたび、ワタシの肩をつかむあの人の手の力が強くなっていた。
ワタシはその手と言葉を振り払おうともがいた。
あの人がワタシの大声に一瞬ひるんだすきに、ワタシは椅子から立ち上がりドアのほうまで向かう。
「やっぱりあなたは本当の孤独が何かを知らないわ。さよなら」
ドアの取っ手に手をかけ、ワタシはあの人を見ずに冷たく言った。
そして、あの人に何かを言う隙さえ与えずにワタシは病室を出た。
ドンッ!
「ごめんなさい……」
病室を出たとたん、廊下を歩いていた誰かとぶつかってしまった。
下を向いていたから顔は見えなかったけど、ぶつかった感触からすると女性のようだった。
ワタシはその人に小さく謝って、急いでその場を離れた。
病院を出たとき、ワタシは通帳を持ったままだったことに気づいた。
でも、もう引き返せない。
引き返したくない。
ワタシは通帳を持ったまま、ある場所へ向かった。


