**-- Ten --**
「……やめてよ」
ワタシから出たのはそんな言葉。
「僕には最後まで見せてもらえなかった顔だ。相手が僕じゃないのはちょっと妬けるけど、死ぬ前に見られてよかった」
「だからやめてよ」
普段のワタシの顔と何が違う?
真っすぐに見つめるあの人の目の中に、ワタシが小さく映っているのが見えた。
どこも変わらないじゃない。
「僕は最期まであがこうと思っている。この病院で死ぬ覚悟を決めたんだ。君ともちゃんと話せたし、渡したいものも渡せた。好きな人の恋する顔も見られた。満足している」
あの人は、ワタシを諭(サト)すようにゆっくり話す。
「君は1人で生きすぎだ。自分の気持ちに素直になったほうがいい。君は幸せの真ん中に行きそうになると逃げる。そこがよくない」
あの人はワタシの肩をつかんで離そうとしない。ワタシは身動きが取れなかった。
「君の友人の向井さん、今好きな人、誰でもいいから頼りなさい。この先は1人じゃ辛すぎる。いいね?逃げるんじゃない」


