**-- Eight --**



「引っ越し屋さん、どこに向かって歩いてんの?」


ワタシは道を歩きながら直貴に素っ気なく聞いた。


“直貴”と名前で呼んだら病気のことを全部話してしまいそうだったから、ワタシはそう言った。


「あー、ほらっ、前に言ってたでしょ、木を見に連れてってやるって」


直貴はジャケットのポケットに両手を突っ込んだまま言った。


――手、つなぎたいな……。


ワタシは、猛烈にその少し開いたポケットの中へ手を入れたい衝動にかられた。


さっきからワタシの目線は直貴の左ポケットにくぎ付け。


入れようかよそうか……。
それはまるで、中学生くらいの子が想いを寄せている男の子を目の前にして、なかなか縮まらない距離をヤキモキした気持ちで見ている、そんな感覚だった。


いつの間にこんなに直貴を好きになったんだろうと自分でも首をかしげるくらい、短期間のうちに想いは強くなっていた。


「そうだっけ。忘れてた」


――本当は忘れてなんてないよ。全部覚えてる。