「プロレタリアーはブルジョアの眼中にない」、マルクスは「資本論」の中でよく言ったものだとつくづく感心する。ベーブはブルジョアの典型だ。
兵士達がニューヨークに着くや否や、町は封鎖された。通ることができるゲートはただ一つ、逃げうろたえる人々、泣けうめく人々、精神状態がおかしくなった人々でごった返していた、地獄図であることは誰でも一目でわかる光景だった。
門を開けろ、門を開けろ!」もう人とは思えないような叫び声でわれ先へと必死にもがく、人があまりにも多いので、当然力の弱い子供やお年寄り、身体不自由者は潰されていく。人間は結局極限状態に陥ると、理性がなくなり、動物本能でしか動けないようだ。義理人情なんてとんでもない話だ。
リンネは目の前の状況に目を閉じた。「オレは何のために地球防衛軍に入っているのだ?この状況に対して何たる無力だ。何のためのダウジング使いなの?」脳裏に次々と疑問や自責の念が湧いて来る。
「おい、どうします?リンネ?」
誰だ?
「おや、ボブじゃないか。」
「どうします?上は取り残された人々の犠牲は仕方ないと口を揃って言っているが、そんなことすれば、六百万人が死ぬ。結局生き残れるのはお金持ちや政府関係者だけだ。おれはそんなことを許さない。いや、許していいのだろうか?おれは捨て子だった、寒い冬のある日に、いまの両親に拾われて育った。その両親はお金持ちとは程遠いまじめな労働者だった。裕福とは言えない暮らしの毎日だったが、毎日が充実して、暖かかった。そして、あの日、突然強盗が家の中に入ってきて、有無を言わさず、なけなしのお金を奪い去り、両親を奪い去った。あれほど人が憎いと思ったことがない、それでも父は瀕死の状態で僕に対してこう言った:人を憎んではいけないだよ、お前には正義の心を貫いてほしい。分かってくれ、わが子よ…そう言って父は息を閉じた。だからおれは正義の鑑である地球防衛軍に入隊しているのに、六百万人に市民を見殺せという命令は正義なのか!??」
「答えてくれ、リンネよ!」

