「せんせ」 私は彼を呼び止める。 小走りに駆け寄ると、彼は現実に引き戻された事に不満げな顔をして私を見た。 「あぁ」 了承の言葉はあまりに味気ないものだった。 “よく来たね” “何か食べる?” 彼は決して親切に聞いてきたことがない。 ただ、私はここにあるだけの存在。 慣れたことだ。 「私も水羊羹食べたい」 「どうぞ」 彼は台所を指差した。 この家には似合わない、真新しい冷蔵庫の中にお目当のものはあるらしい。