——つまり、必要最低限のそれらしさはあったはずだ。そう考えて、まず間違いはない。事実だ。それは事実なのだ。
  
 俺は、いつもしているみたいにして、彼女に歩み寄った。彼女に声をかけて、それ相応の、つまりそういう言葉をかけて、そういう感じに所謂「口説く」わけである。このとき、どちらか一方の頬を上げて、にやりとしていなければならない。まあ、そんなことはこの際どうでもいいわけだけど。
 
 いつものように引っかかってくれるとばかり思っていた。

「——!?」
「なんだか知らないけど、初対面の人間に向かって、無礼じゃないかしら」
  
 ビンタされて、言われたのがそれだ。
 一週間前の、始業式のことである。