「………、……い、葵、起きれる?」


「………あ、ごめん、寝ちゃってた」

体をゆっくりと起こす。

今度は視界が揺れなかった。

「俺も支えるから、ゆっくりな」

兄貴が俺を支えながら玄関を開けると母さんが出迎えてくれた。

「湊、おかえり。葵、大丈夫?」

「母さんただいま。とりあえず葵を部屋まで運ぶよ」

「それじゃぁ、湊、お願いね」

母さんは、兄貴と俺を見てにっこり微笑んでいた。

兄貴は俺を支えながら、俺の部屋まで運んでくれて、ベッドに寝かせてくれた。

「兄貴、ごめんな、ありがとう」

「何言ってるんだよ。大事な弟が体調崩してるんだ。当たり前の事をしただけだよ」

そう言いながら、兄貴は照れていた。


社会人になる前の兄貴からは考えられないセリフに、俺は驚いた。

かな兄の会社で働きだしてから、反抗期の時にキツく当たられていた俺たち家族に優しくなった兄貴は、きっと、かな兄の影響を大いに受けているんだろうな……


母さんは、以前の優しい兄貴に戻ってくれて凄く喜んでいたのをよく覚えている。