持ってきた絵本も残すところ一冊。

「じゃぁ、このお話で今日は最後にするね。あるところにとても可愛らしいお姫様がいました。…………」

「みぃ?」

お話の途中で声をかけられて思わず振り向くと、驚いた顔をした葵がいた。  

…………まずい

葵にもすぐに帰るって話してた。

でも葵がどうしてここに居てるの?

「検診終わったんでしょ?どうしてここに居てるの?」

そう言って、私に話し続ける葵。

「もー、たにぐちせんせい。おはなしのじゃましちゃやだー」

一人の女の子の言葉で分かってしまった。

今の葵の研修先が小児科なんだ……

「え、いや、舞ちゃん。今日はお姉ちゃん来ない日なんだよ」

「でも、きてくれてるもん。おはなししてくれてるもん」

「じゃぁ、この一冊だけいいか、舞ちゃん、お願いしてくれる?」

「うん、たにぐちせんせい。このおはなしでおわりだからよんでもらってもいい?」

子どもにおねだりされたら、断れないよね。

だって舞ちゃんは悪いことしてないし……

「…………後一冊だけだよ」

良かった……ちゃんと読んであげれる。

「はぁい」

元気よく答えた舞ちゃんは嬉しそうだ。