ひと月もふた月も
章弘を見かけないまま
春が終わって
梅雨がやって来て

あたしは
桜が散っても
雨に降られても
章弘を想っていた

約束を交わしたわけでもなく
目的があるわけでもなく

ただ
あの日つないだ手の
あたたかさを覚えていれば
それだけで
あたしは想い続けていられた

好きでいる理由なんて
ホントにいらないもんだと思った



じめっとした
梅雨ならではの雨の中
ピンクの傘をさして
いつもの道を帰っていた

ピンクなんてキライ

そう言っていたあたしが
なぜか使っていた
ピンクの傘

今でも
どうして買ったのか分からない


「やっぱり」


急にうしろから声がした

それは
愛しい声だった


「変なピンクの傘が見えたから
お前ちゃうかなーと思ってん」

「変なってなんよ!」

「だってお前ピンク嫌いやんか」

「キライやけど」

「意味分からんわ」


章弘はけらけらと笑った
確かに意味が分からない


「学校行っとったん?」

「一応な」

「全然見んから」

「やろな」


心配してたなんて
言えるはずもなく
並んで歩いているだけで
幸せに感じていた