「なんで待っとったんよ」

「来ると思ったからやってば」

「ふーん。じゃぁ…
なんで素通りしたんよ」

「ん?」


聞いている自分が
恥ずかしくなって
情けなくなって
黙り込んでしまった

雑巾がけの跡が
薄く残った廊下を
意味なくじっと
見つめていた

せっかく久しぶりに
話せたのに
余計なことを
聞いてしまったと
言った側から
後悔していた


「お前いっつも誰かとおるから」

「え?」

「だから、話しかられんねん」


ふてくされたような
愚痴を言っているような
そんな顔で
章弘は廊下の窓の外を見ていた


だから


だから
あの時
無視するみたいに
素通りして…


自分の心の弱さを
あらわにされたようで
また
黙り込んでいた


「雪、あの日みたいやな」


顔を上げて
章弘を見た

そこには
あの日の章弘がいた

穏やかな顔をした
優しい章弘が


「うん、あの日みたいやな」


窓から見える外は
静かに白さを増し
空はグレーなのに
キレイさを
帯びていた