あたしを捕まえたのは
先生じゃなく
章弘だった


しっ


声を出さずに
口の前で
人差し指を立てて見せた


角を曲がってすぐ
立派な花瓶を飾るための
大きな木の棚の脇に
あたしは
章弘の手によって
かくまわれた


先生の足音が
近づいてくる


トントントントン


章弘は
敵から逃げる
戦士のような顔で
空気を感じ取っている

あたしは
黙って息を潜め
章弘の腕の中に
おさまっていた


脱いだままの
上靴と一緒に


心臓が
飛び出るように
脈打っているのは

隠れているからか
この腕の中にいるからか

気を失いそうに
高鳴る鼓動を
沈めることは
できるはずもなかった


背中に回された
章弘の手が
あったかい


外は雪で
白く染まり
空からは
粉雪が
途切れることなく
はらはら
舞っていた

冷たい床は
体の熱を奪っていくのに

寒い廊下は
手の先の色を奪っていくのに

あたしは
灯がともったように
あたたかい気持ちで
満たされていた