散々章弘をひどく言われて
家に帰ると
お母さんが待っていた

「おかえり」

「ただいま」


きっとどう見ても
元気はなかったと思う

「紗世、手大丈夫?」

「大丈夫」


昨日擦り傷にまみれて
家に帰ったあたしを
お母さんは
心配していた


あたしとおんなじ
気持ちでいてくれるのは
章弘だけ
味方は章弘だけ
そう思っていたけれど
決して家族の
仲が悪いわけではなかった


幸せであったかい
家庭だ


だけど

満ち足りない
寂しい気持ちが
あたしの中には
いつも渦巻いていて

そして
それをゆうことは
できなかった


伝える術が
見つからなかった
のかもしれない


「学校から連絡あったけど、
蹴ったの西田君なんやって?」

「うん…」

「仲ええもんなぁ?」

「うん、ええよ」

「先生も心配しとったで?」

「友達やで?好きでおるねんもん」

「分かっとるよ」


お母さんはそれ以上
何も言わなかった

そして
黙って
手のひらの傷に
新しい絆創膏を
貼りなおしてくれた