日吉くんは、私の姿を見つけるなり跳ねるようにして駆けてきた。
「真希ちゃん!!」
「······おはよう」
一応、社交辞令として挨拶はしておく。
「一昨日はごめんなさいッ!!」
私の前で足を止めたと思ったら、彼は身体を90度に曲げて頭を下げた。
「え······」
「俺、真希ちゃんがあんなに甘いもの嫌いだなんて思ってなくて、てっきりケーキが好きなんだと思ってて······」
日吉くんが泣きそうな顔で私を見上げる。
「本当にごめんなさい······」
「······」
またその顔をする。
どうして私なんかに懐いたんだ。
「真希ちゃん」
「?」
日吉くんは、返事に困って黙る私に1歩近づき、おでこに手を当てた。
「まだ体調悪い?保健室行く······?」
「······もう大丈夫だよ」
私は首を振って、ほんの少しだけ口角を上げた。日吉くんの表情が明るくなって、私の隣に並ぶ。
「鞄持とうか?」
「平気」
「おんぶしようか?」
「······いらない」
そっけなく振る舞ってもまとわりついてくる姿は、まるで子どもだ。
(ほんと、なんなんだろ······)
胸の奥がむずがゆい。
誰かが気にかけてくれることが嬉しいのだろうか。
(でも)
私は日吉くんに思わず笑いかけそうになってから、意識的に表情を引き締めた。
廊下の先に、あの人たちがいた。
「······」
「真希ちゃん?」
「······日吉くん。私、一昨日言ったよね」
「え?······あ」
『案内をしたら、貴方との付き合いはそれでおしまい』。私は一昨日、確かにそう言った。
どうか放っておいてほしい。
一緒にいると何か起こる。そんなことは
目に見えている。
「真希ちゃん······」
悲しそうな声の日吉くんを置いて、私は教室を目指す。彼女たちが私を見る。声は、かけてこなかった。
━━━ガラガラ······
聞き慣れてしまった引き戸の音。
けれどなぜか、今はとても重苦しい音のように感じた。
扉の向こうで、日吉くんが立ち尽くしていた。
