「宮原、これ誤字がある。午前中に直せ」

「…はい」


私を助けてくれた人が、同じ会社の社員である中津さんだと分かってから1週間。

中津さんは、あの時のことを何も触れてこない。

というか、私のことを忘れてるんじゃないかと思ってしまう。
でも再会したのは、あの日の翌日だし…


なぜか私だけがモヤモヤしたままだ。

私は、じっと中津さんを見つめる。


「……何だ」

「え?」

「凄い目付きで俺を見て、何か用があるのか?」


中津さんから出た、冷たい口調。

バチッと目があって、私は思いっきり反らした。


「何でも…ありません」

「…………」


バカみたい。

何で私、たったあの日の出来事に振り回されてるんだろ。

こんなの私らしくない。


コツッとヒールを鳴らして、私は自分のデスクに戻った。

バサッと資料をデスクに置いて、席につくと、何やら視線を感じて。


隣を見ると、多恵子がにやついた顔でこちらを見ていた。