嘘つきの世界で、たったひとつの希望。

「和葉、帰ろう」


キミは優しいから何も聞かずにいつも通りに話しかけてくれる。
だけど私は、そんなに強くはないんだ。
心が闇に包まれて、いつも通りに振る舞えるほど大人じゃないから。


「ごめん、私行く所があるからっ……」


キミの目を見る事なくそれだけを言い放って走り出した。
行く所なんてある訳がない。
だけど1人になりたくて、ただ身を任せて走るんだ。


「和葉!!」


後ろから聞こえるキミの声。

振り返りたい様な振り返りたくない様な。

どっちつかずの私の感情。
自分がどうしたいかなんて分からない。
分からないけど止まれないんだ。


「っ……はっ……」


走りながら、頬を流れる涙。
我慢をする事が出来なくて近くにあった女子トイレに駆け込んだ。
誰かに涙を見られたくなくて。
誰もいないトイレで声を押し殺して泣き続けた。


『気持ち悪い』


頭に響くのは沢山の声。
別に誰かの心の声が聞こえている訳じゃないけれど。
グルグルと回るその言葉に、胸がぎゅうっと締め付けられる。


「気持ち悪い……よね……。
そんな事……知ってるよ……」


力なく消えていく声。

溢れ出す涙。

可笑しくもないのに笑う自分。

あと少し、あと少しで。
ギリギリで保たれていた私の心は。
木端微塵に砕かれて、引き裂かれるだろう。

他人事のように考えながら、私は低い天井を見上げた。