嘘つきの世界で、たったひとつの希望。

初めて見た彼の笑顔は見惚れてしまうくらいに綺麗だった。
言葉なんて出せなくて、キミの目を見つめてしまう。


「いい名前だね(いい名前だ)」


目の前と頭の中に同じ言葉が響き渡る。

ああ、この人は……。
本当に汚れのない綺麗な目をしている。


「どうしたの?」

「ううん、何でもない」


いつ以来だろう。
こんなに穏やかに笑ったのは。

頬を撫でる風は生温かくて、日差しは熱いのに。
私の心は晴々としていた。


「キミは?なんていうの?」


海に視線を向けながら訊けば彼は小さく笑って呟いた。


「内緒」

「はい!?」


私には言わせておいて自分は答えないつもり?
信じられなくて彼を見れば優しく目が細められる。


「次に会った時に教える」

「次って……」


知り合いでもあるまいし、そうそう会う訳がないのに。
これって教えたくないって言っている様なものじゃない。
眉を顰めれば彼は唇の両端をクイッと引き上げた。


「アンタとはまた会えそうな気がする。なんとなくだけど。
(きっと、またすぐに会える、そう思うのは俺だけ?)」


目の前のキミと頭の中のキミの声。
その2つの声に大差はなくて、私の頬が緩んでいくのが分かった。


「私も」

「え?」

「私もそう思う。なんとなくだけど」


彼の真似をして言えばキミは小さく微笑んだ。
あの綺麗な笑顔で。