「入らないし」

「えーつまらないなー」

「うるさい」


軽くオデコを小突かれる。
バランスを崩した私をケラケラと笑いながら見ている正輝は性格が捻くれていると思う。
でも、そんなキミと一緒にいるのが好きなんだけども。
恥ずかしい事を考えていれば正輝の手が私の手を掴んだ。


「な、なに?」

「俺さ」

「う、うん」


何でそんなに真剣な目をしているの?
さっきまで笑っていたはずの正輝の顔から笑顔が消えたのは数秒前。
突然の事で驚いていればキミは私の手を掴んだまま海を見つめた。


「……アンタに会いたかったんだ」

「え……?」


予想外の言葉。

キミが何を想っているか分からなくて。

知りたかったけれど。
でも、目を合わせるのもなんか違うなって思った。

だからキミの目を見る事なく私も同じ様に海を見つめた。


「昨日までさ」

「うん」

「ずっとアンタと一緒にいたじゃん、学校で」

「……うん」


2人で手を繋いで海を見る。
キミの手のひらにギュッて力が入る度に。
私の胸は大きく脈を打つんだ。


「まだ1週間も経ってないのにさ。
アンタといるのが当たり前の様に感じて」

「……うん」

「会えない時間が苦痛で仕方なかった。
朝起きて、今日はアンタに会えないんだって思うと胸が痛くなって。
……気が付いたらここに来てた」


キミの気持ちが本当かどうかなんて分からないのに。
何でだろう。
キミの言葉が、嘘や、からかっている様には思えなくて。
信じたいと心が叫んでいる。

今までこんな気持ちになった事なんかないのに。
人間の裏の顔を知っているからこそ、誰かを信じたいと思う事なんてなかったのに。

何で出逢ってからまだ間もないキミの事を信じたいと思うのだろうか。