「教えようか?勉強」

「え……?」

「何か困ってるみたいだから」


願ってもない申し出だった。
1人で勉強をしても集中力が続かないし、分からない所も多いし。


「お願いします!」


即答で頭を下げれば正輝は『ははっ』と笑っていた。
でもすぐに『頑張ろうね』って優しい声で言うから。
何か怒れなくて私も一緒になって笑う。


「じゃあ、今日の放課後からやろうか」

「いいの?」

「うん」

「ありがとう!」


お礼を言えば正輝は『ううん』と小さく首を横に振る。
正輝と一緒に勉強をするなんて思ってもいなかったけど。
なんか嬉しいかも、高校生ぽくて。

今まで深く人付き合いをしてこなかった私は、親友と呼べる人もいないし、一緒に勉強をする事も無かった。
だからちょっぴりドキドキしているんだ。

胸に手をあてれば、鼓動の音が手のひらに伝わってくる。
やっぱり緊張しているんだ。
心でそう呟いて正輝を見つめた。


「(楽しみだな)」


穏やかな顔とリンクする様な優しい声が頭の中を駆け巡る。

正輝の心の声を聞くのは苦じゃない。
だって裏と表なんて存在しないんだもん。
醜い世界とは縁のない正輝。
だからキミとなら躊躇なく目を合わせられるんだ。


「楽しみだね、正輝」

「……うん、楽しみ(俺だけじゃなかったんだ)」


少し嬉しそうなキミを見ると私まで嬉しくなる。

緩みっぱなしのだらしない頬。

気合いを入れる為に、パンパンと両手で叩く。


「頑張るぞー」

「おー」


独り言のつもりだったのに。
小さく拳を上げる正輝に胸が温かくなった。