「……」

「……」


私も男の子も何が起きたかなんて全く分からなくて。
ただボーッとその場で佇んでいた。
体はずぶ濡れなのにそれすら忘れてただ固まってしまう。


「……立たないの……?」


お互いに暫く動かずにいれば、その静寂は破られた。
少し低い、でも嫌じゃないその声は私の胸へとすんなりと入りこむ。


「……立つ……」


短く言葉を返せば『ん』と軽く返事をして私を起こしてくれた。
ほとんど力を入れていないのに、私の両足は地面へとついていた。
細身の体のどこにそんな力があるのか、不思議に思っていれば男の子は私の手首を引っ張って砂浜に連れ戻していた。
そしてそのまま私の靴が置いてあるところまで真っ直ぐに歩いて行く。
手首を掴まれているから私もその後を追うしか出来なくて。
男の子の背中を見つめながら呆然とするしかなかった。


「……大丈夫?」


前触れもなくクルリと振り向いた彼。
しまった、そう思ったがもう遅かった。

パチリと交じり合う視線。
大袈裟なくらいにすぐ目を逸らしたけれど何の意味もなく。
頭の中に響く声。


「(面倒くさい事に巻き込まれた)」


その声は、さっき聞いたばかりの男の子の声。
だけど、男の子は口すら開いていないだろう。

ドクンドクンと騒ぎ立てる胸。
苦しくなってぎゅっと唇を噛みしめた。