そんな胸の苦しさを消し去りたくて。
何度も打ち付ける波に近付こうと足を動かす。
でもすぐにハッとした様に立ち止まった。


「靴……濡れちゃうな……」


足元に目を向ければ薄いピンク色のスニーカーが目に映った。
少し爪先の部分は汚れているけれどお気に入りには変わらない。
いそいそと、靴と靴下を脱ぎ少し離れた所に置いた。
砂浜のサラサラとした感触が、熱を溜め込んで熱くなった砂が、足全体を包み込んでいく。


「気持ち良い……」


何度か踏みしめていたけれど、流石に熱くなったから急いで海へと近付いた。
濡れた砂が固くなっていてさっきとは違う踏み心地。
少しぬるっとしたような何とも言えない感触にブルリと身を震わせた。

足を進めて水の中へと入れば冷たい様な温い様な、どっちつかずの水温で。
だけど波が打つ度に私の心は軽くなっていく。
足を濡らし、足首を濡らしていく波に、もっと近付いて見たくなった。

波はどこからきているのだろうか。
そんな疑問を晴らす様に私は歩き出した。

頭の中は特に何も考えていなくて、空っぽのままだ。
なんとなく無心に、波の音だけが響く中、1歩ずつ歩いていた。

気が付けばふくらはぎにまで水がきていた。
もう少し気が付くのが遅ければスカートまでベチャベチャになっていただろう。
心の中で安堵のタメ息を吐き、引き返そうと体の向きを変えようとした時だった。

バシャバシャと水を掻き分ける音と、誰かの声が響き渡った。


「やめなよ」


それと同時に私の手首は掴まれていた。
そしてそのまま引っ張られる。


「え、ちょっ……!?」


誰かがいるなんて知らなかった。
誰かに掴まれるなんて、ましてや引っ張られるなんて思ってもいなかった。
なんの警戒もしていなかった私の体は、いとも簡単に海へと落ちていく。


「あっ……」


真上には驚く男の子の顔。

バシャンと激しい音を立てながら、私の体は仰向けに海へと倒れていた。
背中は冷たいのに、繋がれたままの手首だけは熱く感じた。