「(本当に面倒な生徒たちを受け持ったもんだ。
只でさえ煩い生徒たちが多いのにサボり癖のある白石と厄介な一ノ瀬が一緒のクラスになるとは)」

「……っ!!」


頭に入ってきた声。
これ以上、聞いていたくなくて俯くがそれすら佐藤先生は許してくれなかった。


「ちゃんと俺の目を見ろ!」


無理やり上を向かされパチリと目が合ってしまう。
逸らす事も出来なくて、ただ頭に入ってくる声を聞く事しか出来ないんだ。


「お前はもう少し落ち着きを持て。
きちんと授業を受ければ学年1位だって夢じゃない位置にいるんだ。
(うちのクラスから学年1位が出れば鼻が高いな。
それくらいしか生徒の価値なんてないんだからいい加減にしてくれよ)」

「あっ……」

「誰の為でもない、自分の為に勉強をするんだ!
(俺の為に頑張ってくれよ)」

「あっ……」

「白石、お前は俺の可愛い生徒だ。お前なら出来る!
(生徒なんてウザいだけだ、だけどいい教師のフリをしていないと面倒臭いからな)」


次々に聞こえてくる本音。

いつもの佐藤先生からは想像もつかなくて。

あの明るくて、嫌に熱血で、偶にウザいけど。
それでも私たちの為に一生懸命やってくれているんだと思っていた。

だけど本当は、生徒の事なんてどうでもいいんだ。
自分の評価を上げる為だけに生徒にいい顔をしているんだ。

醜い感情が、ジワジワと私の心を蝕んでいく。
目の前が真っ暗になって、息をするのも苦しくて。


「ハァ……ハァ……」


乱れる呼吸、痛む胸。


「和葉……?」


そんな私の異変にいち早く気が付いたのは正輝だった。
目すら開けていられなくて、嫌な汗が額に浮かんで。
ガクンと膝が折れる。


「和葉!!」

「白石!!」


真っ暗な視界の中、誰かの温もりだけが私を包み込んでいた。