「そんなのお互い様だよ」


もし正輝に出逢っていなかったら。
私は今でも心の声の事を気にしていたと思う。

醜い世界で。たった1人で。

目を閉じて、耳を塞いで。
何も聞こうともせずに。

逃げて、隠れて。

周りに合わせて、愛想笑いをして。

そんな事を繰り返すうちに。

私は本当にこの世から去ってしまっていたかもしれない。


「キミがいたから私はこうして笑っていられるの」


お兄ちゃんの本当の想いを知った。
お父さんと、お母さんと真っ直ぐに向き合った。
バラバラだった家族が、偽りだった家族が。
やっと本物になった。
それも全部キミのお蔭だから。


「ありがとう」


お礼を言えばキミはそっぽを向いてしまう。
でも、私に向けられた耳は真っ赤に染まっていた。

それが可愛くて。
クスリと笑ってゆっくりと顔を近付ける。
小さなリップ音と共にキスを落とした。


「なっ……!?」


バッと目を見開いて私を見るキミ。
頬を押さえながら瞬きを繰り返していた。


「いつもドキドキさせられてる仕返し」


にっと笑えばバツが悪そうな顔をするキミ。
こんなやり取りが幸せで。
心が弾むんだ。