「や、やめろよ……」

「いつの間に生意気を言うようになったんだ?」


照れた様に顔を紅めるお兄ちゃん。
それをからかう様に頭を撫で続けるお父さん。


「お兄ちゃん嬉しそう」

「ええ、お父さんのあんな顔も久しぶりに見たわ」


お母さんと笑いながら2人を見つめた。
そうすれば、お兄ちゃんたちが同時にこっちを向いた。
ニヤリと同じ顔をして笑うお父さんとお兄ちゃんに私とお母さんは引っ張られた。

私は椅子からずり落ちて、お兄ちゃんの胸に飛び込む様に抱き着いて。
お父さんとお母さんが、そんな私たちを包み込む様に抱きしめていた。

初めて感じた温もり。

お父さんもお母さんも、お兄ちゃんも私も。
顔は涙でぐちゃぐちゃだったけれど。
皆、笑顔が浮かんでいた。

偽りなんかじゃない。
本物の笑顔が……。


「気が付くのが遅かった。
でも、気が付かせてくれた」

「うん、和葉も和翔も。
一生懸命に闘って私たちを諦めないでくれた。
本当に……ありがとうね……」


お父さんも、お母さんも。
優しい声だった。
あれほど聞きたくなかった心の声も今は何も聞こえない。
不思議なくらいに静かな空間。


「……ううん……もっと早く言っていれば良かった……」

「ああ、そうすれば和葉にも辛い思いをさせずに済んだのに……」


お兄ちゃんは私を抱きしめながら哀しそうに顔を歪めた。
だけどそんな顔を見ていたくなくて。その胸板に抱き着いた。


「大丈夫だよ。
今こうして……家族皆で笑っていられるから……」


私がそう言えば皆は頷いてくれた。
見慣れているこの家が、いつもより温かく感じたのは私の気のせいなんかじゃない。
皆の温もりが交じり合って、幸せを膨らませているんだ。