「ここは……」


辿り着いたのは浜辺だった。
目の前に広がる大きな砂浜も、その先にある海も。
私の鼓動を大きく高鳴らせるには十分だった。

アスファルトの少し高めの段差から、ひょいっと飛び降りれば足がズボリと砂に埋まる。
砂の熱さがスニーカー越しに伝わってきたけれど構わずに海へと近付いていく。

波打ち際に立てば、そこはさっきまでとは違って少しだけ涼しかった。
太陽の光に反射して光る海も、透き通る空気も、爽やかな風も。
全てを忘れさせてくれるかの様に優しく私を包み込んでいた。

誰もいない私だけの世界。
もし、神様がいるのなら。
どうか時間を止めて下さい。
私をこのままココにいさせて。

海の、ずっと遠くを見つめて私は微笑んだ。
穏やかなこの時間が、波の音と風の音しか聞こえない、この静かな時が。
永遠に私に続きます様に。

そう願いながら綺麗な青を見つめていた。

潮の香りが、温かい日差しが、頬を撫でる風が。

私の心を洗ってくれる。
いつもの喧騒の世界から、静寂な世界へと私を導いてくれている。


「もう帰りたくないかも」


寂しげな声が体を突き抜けていく。
これは本音なのに、この言葉を発する度に胸が苦しくなっていく。