「それは……自分に言い聞かせているんですか……?」

「……は?」


お兄さんは鼻で笑う様に言ったけれど。
私は真剣そのもで。
ニコリとも笑わずに言葉を放った。


「正輝がいるからご両親は自分を愛さない。
正輝のせいで自分は見て貰えない。
そんな想いが正輝を嫌いだと思い込ませている」

「思い込ませている?馬鹿を言うな!俺は……」

「『正輝っ……お前なんか大嫌いだ……』」


ポツリと呟いた言葉。
口に出すだけで泣きそうになるけれど泣く訳にはいかない。
奥歯を噛みしめて俯きかけた顔を上げた。

そこには目を丸めるお兄さんがいて。
その瞳は僅かにだけど揺れている気がしたんだ。


「この言葉は、お兄さんが前に心で言ったものです。
私には凄く哀しそうに聞こえました。
2人の事情はほんのちょっとしか知らない。
いえ、何も知らないかもしれない。
だけど……そんな私でも……苦しそうに見えましたっ……」


言い終わった瞬間に、目の奥がカァーッと熱くなった。
あんなに哀しそうな声をしていたのに。
そこには憎しみや嫌いの感情しかないなんて。
そんなの信じられる訳がない。


「それなのにっ……」


言葉を続けようとしたけれど。
それは叶わなかったんだ。

震える唇が邪魔をして言葉が出せない。
カチカチとぶつかる歯をこじ開けて、無理やり声を出そうとしたけれど。


「もういいよ和葉」


キミの優しい声がそれを阻止したんだ。


「まさき……?」


必死に絞り出した声でキミの名前を呼ぶ。
ふいに視線が交じり合う。
その瞬間、ホッと胸を撫で下ろした。

だって、諦めたとか、哀しみに負けたとか。

そんな様子は一切なかったから。


「……」


力強いその目は、真っ直ぐで。
私が心配をするだけ無粋の様な気がした。