「どうしたんだ?こんな所に呼び出して(どうして、何でお前はその男と一緒にいるんだ!?)」


お兄ちゃんは私の顔を見ていたけれど。
決して目を見てはいなかった。
いつもだったら気が付かないだろう。
ほんの僅かに逸れている視線に。
目を合わせない様にしているなんて、考える事もしなかっただろう。

だけど、今ハッキリと分かった。
お兄ちゃんは私に心の声を聞かれない様に目を合わせてこなかったんだ。
ずっと、ずっとね。

今も、目を合わせなくても心の声が聞こえる事はお兄ちゃんは知らない。
だから安心して心をオープンにしている。
だけど全部聞こえているんだよ。


「急にごめんね。話があるの」

「話?(だったらどうしてソイツがいるんだ!!)」


優しい笑顔を浮かべるその裏では怖い声が響き渡っている。
それを認めたくなくて、目を背けたくなるけれど。
キミから感じる手の温もりが私の背中を押してくれるから。


「うん、私と正輝からお兄ちゃんたちへ」

「君たちから俺たちにってどういう事?」


さっきまで黙っていたお兄さんは爽やかな笑顔で私を見ていた。
でも、その笑顔は偽りだって知っている。
だって、隠しきれていないから。


「(白石 和葉……君はどこまで俺の邪魔をするつもりだ……)」


憎しみに満ちたその声が。


「邪魔なんかしませんよ。
ただ……取り戻したいんです……私たちの大切なモノを」


ワザとらしくニコッと笑えばお兄さんは一瞬だけ肩を揺らした。
でも、すぐに鼻で笑ってくる。
思い出したのだろう、私が心の声を聞く事が出来るという事を。


「……」


4人は黙ったまま見つめ合う。

それぞれ思う所はあるのだろう。

だけど、こうやってお互いを探り合うような目をするのは今日で最後だ。

この話が終わる頃には、きっと。
ううん、絶対に本当の笑顔で笑い合っている。